「日本の実例(失敗例)を列挙した週刊ダイヤモンドのFREE特集」

 
FREE関連読書という事で、1年前の雑誌とかですが、取り寄せて読みました。
以下感想。
 
FRREの特集は約34ページとなっています。逆に言うとそれ以外の時事なんかは完全に時期外れとなっており、まぁ価値なし。雑誌なので当たり前ですが。
で特集は”いそがしいサラリーマンのため”なのか、まず冒頭にさらっとFREEの概要を述べています。
これで「FREE」本書を読んでなくても知ったかできるでしょう。広く浅くの感はあるものの、実際「FREE」でも、まぁ割と取材の結果を網羅するというか、冗長と感じる部分が多かったのは事実ですし。
 
この雑誌独自の情報としては、FREE4つのモデルに沿って”日本の企業の例を”フォローしてる、という所でしょうか。
FREE4つのモデル。
 

1.直接的内部相互補助(ある商品は無料で、その商品に必要な他のものは有料。カミソリは無料で替刃が有料・・・が典型的なパターン。)

・モバゲー、アマゾンのジャバリ(*返品に掛かる送料が無料で、幾らでも試着できる・・・そう。まぁジャバリが初ではないと思う、「FREE」に元祖の会社のことが載ってましたが、日本にとっては一番これが身近だからでしょうか・・・)

レンタルビデオの月辺りの契約(月8枚まで、一度に借りられるのは2枚までで、契約料1958円、督促料なし。・・・DVD1枚ごとはタダ、みたいな理屈か?)
・調剤会社のコンサルタント(コンサル料は無料で、医院を開設させる代わりに、同じビルに薬局を入れて、指定薬局として処方箋の代金で稼ぐ)

 

2.三者間市場(消費者でない第三者が代金を負担する。主に広告など。オープンソースでやって、データのログを大学が分析用に買い取る、などもこれに当たる?)

GyaOタウンマーケット(チラシとテレビ欄だけが無料で届く←まさに新聞の必要な部分の選りすぐり。”FREEが広まると、既存の価値を破壊する”という典型例か)
 

3.フリーミアム(商品の無料版と有料版がある。1.と違うのは、それが違う商品で利益を取るか? それとも試用回数(期間)・機能制限によって「同じ商品」の有料の方へ、誘導するかどうか。こういうのはデジタルのがやりやすいね。)

・Smart.fmという英語サービス(気になったので行ってみたら、違う形でリニューアルしてた・・・)
iPhoneアプリの無料版として、画面をこすったり息を吹きかけたりすると、女の子のスカートがめくれるという・・・・まぁしょうもないアプリ。
だが世界で10万DL、有料版は115円と230円があるそうだが収支はトントンだそう。
面白いのは出演女優さんの収入は以前の10倍になったという話。4.と絡めて、評価経済やFREEは多面的かつ、長期の活動に強い影響をおよぼす・・・という話にもなると思う。この雑誌では評価経済にほとんど触れちゃいないが・・・
・CDじゃなくてライブで稼ぐというミュージシャンの、日本の実例。
この人は、公開録音を開催して、twitterで歌詞を募集してその場で曲をつくったり、その様子をUsteramで放送したり、よりアクティブに、”ライブ感を楽しむ”方に傾いているという例。
逆に言うと”楽しめば(結果的に規模が広がり)、お金は後から付いてくる”というFREE独自の脳天気さ? も代表しているのかな。
それが間違っているか、正しいか?
とりあえずお金を稼ぐだけでもうワクワクしないならば、そういうのも「アリ」でしょう。これまた意識的ではないにせよ、評価経済を取ってる一例とも言えるかも。
まつきあゆむ -ヘッドフォンリスナーズサイクリングクラブ-」http://matsukiayumu.com/index2.html
 

4.非貨幣市場(お金を貰わずともコミニティに寄与できるだけでも、モチベーションとなる人々の市場。ボランティア、NPOとかも入る?)

半導体チップの設計書の無料公開(*作ろうと思えば自作できるが、まぁ大概は出来ているものを同サイトで注文する)
・お天気情報のSNSみたいなもの。お天気マニアがいるのか、みんなで各地方の天気を提供しあって精度を高めていく。その精度は気象庁でもマネできないという(これは確かに、好きな人にはモチベになるかも)
無料だとただ情報を参照するだけだが、有料だと自分たちが提供し、編集できるようになる。いわば楽しいコミニュティへの参加キップが有料。
(逆に言えば、一部のお客に情報も提供させて、お金を払わせているとも言える・・・
・・・昔から評価が高まると、逆転現象が起こる感じか。
理容師の見習いはカットの練習になって貰う人にお金を払うけど、プロになったらお金を取る立場になったり。ある一点から”評価”の交換レートが”お金”より高くなった・・・と捉えるのは、穿った見方?)
 
全て日本の実例にこだわったのは凄いけど、そのぶん、なんか”混じり気”というか、要するにフリーって付いれてば、あれもこれも放り込んでる感で、趣旨が分かりにくくなってる感じも。
実際、これを読んだ個人がフリーを試みられるのはデジタルな例だけだと思うんだけど、大きい企業でないと出来ないフリーも混ざっているというか・・・。(踏み込んで言えば、コストが掛かるという意味で「旧来の”サンプル戦略”」。FREEブームには個の台頭、という側面もあると思うし・・・。)
そんな例はけっきょく活かせないから、自慢話してオシマイになりそうな感じも。
まぁダイアモンドの読者なんかは、でかい企業の経営者なんかも多いのかね? 111には分からぬ世界や・・・
 
 
111が面白く注目したのはいわばフリー戦略から有料への”成約率”で、モバゲーのアイテム課金率は登録ユーザーの10%にもなるという。
「FREE」本書では、中国の音楽市場のCDを買う率は1%、とも述べていた(意外に多いか?)
逆にこの雑誌のコラムのページにあった、昔ながらの無料で配るポケットティッシュ、あれの消費者金融の広告の場合、来店する率は「1000人に1人」だか。
コストは1個あたり4〜8円だそうだが、まぁ消費者金融は余裕で一人当たり数万〜数十万は稼ぐだろうから、利益は出るのである。
フリーは手に取ってくれるお客さんを増やすけど、そこから有料のを買ってくれるパーセンテージ・有料版の単価なども考え、バランスやフリーのシステムに頭を巡らせると面白いね。
 
ちなみに「FREE」によると”10%が理想、それ以上だとむしろフリーを出し惜しみにして、母数の最大獲得を失ってる。5%より下なら、有料版の機能を提供し過ぎ。典型的なオンラインサイトの有料会員率は5%。”といった風に述べていた。
とするとモバゲーは課金形態として、一番理想的なんですかねぇ・・・ 昔からのゲームファンとしては、ちょっとちょっと、と言いたくなる事もあるけど・・・。
 
FREEでの面白さとしては、来店すると、お茶とおかきがタタで食べられる播磨屋などが紹介されていたり。

集まった人たちに、地球環境問題の重大性や緊急性を正しく伝えること。そして、播磨屋助次郎代表が唱える解決策と、同氏の”思想や””宗教観”を伝えることだ。店内には同氏からのメッセージが書かれた横断幕がかかっている。

これはフリー戦略としてお金が儲かるわけでも、恐らく評価を集めるものでも無いのだろうが、FREEは場合によっては、自分の作りたい現実を助ける「強力なツール」となる・・・ということである。
播磨屋の公式サイトを見れば、分かる(何が)。
http://www.harimayahonten.co.jp/index.html
 
あ、おかき自体は普通に美味しいみたいです・・・
 
岡田斗司夫氏がインタビューに答えて、「自由評価競争」の時代が始まる、と述べているが、まぁ1ページなのでほとんどエッセッンスだけ。詳しく知りたかった彼の本を買えということでしょうね(またブログ記事で書くと思います)

 
ただ大事なことはしっかりと述べていて

堺屋太一氏の言葉を借りれば、人間には「豊かなものをたくさん使うことは格好よく、不足しているものを大切にすることは美しいと感じる」(『知価革命』)倫理観が普遍的に存在する。だからモノが溢れていた時代は、モノを大量消費することが格好よかったのだ。
今はデジタル技術の進歩によってコストがゼロに無限に近づいたことで、「情報」が溢れるようになった。だから情報を大量消費する人が格好いいという価値観にシフトした。

物事を教えてくれる人や、価値ある人の時間の一部を与えてもらうことが最も稀少なものになる。

この辺とかは実に金言ぽい。
 
 
それと興味深いのは、”FREEでの失敗例”についても調査し、リポートしていること。これはなかなか元の「FREE」には無かったことですね。
ただ全てアトム(リアル)での失敗であって、経費が無視していいほど低い(=新しいFREE、デジタルのFREE)で無いのなら、リスクは自然と高まる(リターンも減る?)という事でしょう。っていうかそれは「FREE」にも書いてあったね。
 
あと配れば良いってものでもない。ビット(デジタル)だとそれに掛かるコストが0に近いからついやりがちだけど、それで配りまくってたらスパムだ。
いくらフリーだとはいえ、ゴミは”タダでもいらない”。大事なのはやはりバリューであると、「FREEで利益を生み出す45の鉄則」にも書いてあったね。

覚えておこう。
すべては価値、バリュー次第なのだ。
バリューの低いものは、たとえそれが無料だろうが、誰も欲しがらない。しかし、バリューの高いものは、それが有料だろうと、人は欲しがるものだ。
そして、
バリューの高いものが無料で提供されていたら・・・、
あなたの元に見込み客が殺到することになる!
 
だから、『フリー<無料>からお金を生み出す新戦略』の中で言っている「一番人気のあるコンテンツを有料にしてはいけない」とはこういうことなのだ。

 
 
最後は「FREE」の訳者へのインタビュー。この方も起業家として成功されているそう。

やはり重要なのはクリテイティビティ。クリエイティビティのない企業がフリーやチープを駆使するのは、自らの運命を細い道にしてしまうどころか、業界全体の首を絞めてしまう危険極まりない行為だ。

と、今までの何でもフリーやで! という姿勢にちょっと注意をうながす形で、バランスを取っている感じ。
FREEの楽しさや、利益とのバランス、あるいは打ち出し方自体は個人でも楽しめそうで、クリエイティビティを試しつつ最大規模を獲得できたらとても良いね。
 
訳者の出した人が出した本。ちょっとフリーと関係ある・・・のかな? フリーを受けての立ち位置か? でも半分くらいしかたぶん関係なかろう。半分とか微妙だなあ・・・

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さて読み終わって一つ気になったこと。それは「FREE」本書を読了した時から気になってた事だが・・・
途中のコラムで翻訳を担当した会社の編集長がインタビューされてて、

本の中で四つに分けて解説されるフリーの概念(略)のうち、あえて造語の”フリーミアム”だけを前面に出して、「読まなければいけないぞ」という雰囲気を醸成した。その狙いは見事に的中し、たくさんの読者を獲得することになる。

のちのブームに便乗したであろう本が、やたらフリーミアムと連呼し、また、たぶんFREEと区別が付いてない裏にはこんな仕掛けがあったのである。
それは良いのだが、「FREE」の中でも”ビットは無料になりたがる性質を持っている”と述べ、しかし「無料→有料版」というモデルのフリーミアムを推している。
え、いずれその有料版も無料になるんじゃないの? というのが読んだ時からの疑問だった。
 
まぁ完全なFREEが訪れるまでの隙間の期間では、フリーミアムのようなフリー戦略が有効・・・という事かも知れない。
だがひょっとして、日本訳の際に、翻訳の加減・あるいは打ち出し方で、原書のテイストよりフリーミアムが強く押し出され、それで主張がチグハグに感じられる内容になってしまったのでは? という気もする。
もしそうだったら、実は貨幣経済評価経済を分かつ、あっち側とこっち側という分かれ目のハナシであって、今後の展開を考える際に、大問題だなと。
ひょっとしたら「FREE」、日本語訳の際にバイアスが掛かってる可能性を少し考慮する必要があるかも。特にこれから評価経済について考えていく時に・・・
 
まぁ英語の原書で読めたら一番世話ない話ですが・・・