ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 感想1

ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略
クリス アンダーソン
早川書房
売り上げランキング: 27379
読んだので感想。
書いたら長くなったので二回に分ける。
 
例によって、既に評判を聞いて手にしてる人にとってはクドクドとした「データ証明」が半分くらいだったりする。
まぁ作者は割とこういう地固めが専門らしいから、さっさと飛ばして、主張だけ読みましょう
 
記事内関連リンク:
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概要

ロングテールという言葉は割と使い古されていて、言葉は聞いた事がなくても、本の表紙の、この曲線を見た事ある人は多いだろう
曰く、これが今のネット市場の実情である。
少しの商品が頭、高い部分を成し、後はひたすら尾のように、低調な売上の作品が続く。
売上の低調な作品、だがその尾はひたすら続く。
 
リアル店舗では販売スペースも在庫も限りが有るので、頭の部分だけ取り出して並べるけど、DL販売では売上の期待できない作品でもとりあえず並べておけば、ちょっとずつ売れていく。
並べるためのコストがとてつもなく低いので、とりあえず置いておく。
そういう作品が、ヒット作10に対して、1000…それ以上、ある。
これら低調・ヒットしない作品、と言われてきた尾を全てまとめると、最終的に頭にも匹敵する売上になるのである。
 
これがメインの趣旨。
結局、ネットでの販売は生産するコスト、届けるコストが減ったから、である。
 
 
実は111もここまでは基本知識として知っていた。
だがあえてそれでもこの本を買ったのは、web上でしたり顔で出てくる情報には省かれてる要素があるんじゃないか?
そしてその要素が実は大事なんじゃないか? と思ったからである。
どうもロングテールの話を深く聞いてみると、そんな気がしていた。
 

ロングテール」、基本知識から一段深く

8:2の法則の否定?

当初「ロングテール」はどうも、昔からある8:2の法則(*市場の8割の売上は2割の商品で決まっている、会社の8割の利益は2割の社員が出している、
2割の体験で8割は理解できる …など、応用様々)の否定としてビジネスブームを呼び出したかったらしく、ところどころにもう8:2じゃねえんだよ、という香りも感じられる。
積み重ねられたデータがあるので、少なくともネット販売の市場としては、8:2ではない、と言えそう。
(そういえばamazonのデータを取得するべく作者はかなり頑張ったみたいだが、今ではDLsiteやDMMは普通に売上数を一般公開している。
 直感的に分かりやすいと思う。) 
 
ロングテールは本家の8:2の法則さながらに、例えば市場全体の売上だけでなく、販売した一本の作品の売上にも応用できるという。
ネット(DL)販売なら、初めの勢いが落ちた後も、じわじわと売れ続ける…。
 
自分の作品で言えば、えろSTG1面は1日目のDLSiteで売上22本だったのが、2年経った現時点、130本である。
連作という影響も大きいだろうが、発売後数日よりテールの売上の方が大きい。
 
それも無理ない話で、例えばスーパーの食料品にしろレコード店のCDにしろ、2年置いたまんま、というのはあり得ない。
食料品は腐るし、CDにしても、新譜を並べなければ機会損失である。
だがネット販売は、新しい作品をただ追加すればいいだけ。
古くて売上がイマイチ期待できない作品でも、残されるのである。
そして古い作品も、何かのきっかけにまた売れたりする。
同じジャンルの作品が出た、作者本人が別の作品を出した、だとか。
 

ロングテール」の勝者は”集積者”以外にも

ここで新しく出てくる問題(ビジネスチャンス)としては、並べられる数が決まっていたリアル店舗と違い、DL販売のwebショップは、ひたすら商品数が増やせる、ということである。
DLsiteだと、(9/11現在)登録数59,108本。
 
まさにデータの洪水という訳で、このまま置いておくだけでは、さすがにこれは省みられないごみの山になってしまう。
約6万本から、その人が探している傾向に合った作品を、さっと探し出せる機能が大事。
ここが111の面白いなと思った所で、”ロングテールの時代の勝ち組は集積者”と本書は語っていて、そのまま集積者というのは要するにamazonなど、webでの販売サイト。と続けている。
それだけだったらまったく救いがないけど(そんな大規模なのなんて殆どの人には作れない)ことフィルタリングならどうか?
 

 
既に膨大の商品数があるamazonは、ランキング上位の本からチェックするか?
たぶんそんな使い方はまれで、どこか外部で知った本を探して、で「この商品も〜」というレコメンドで深く潜っていく、という事が多いんだと思う。
ロングテールの極地。
今のDLsiteは嗜好関係なくランキング上位から割とチェックする傾向が強いので、まだまだ商品数やら規模やらが小さいと。
(まぁDL同人では大きくなりにくいかもだが)
 
商品を置けるweb販売サイト――(”集積者”と本書では呼んでいる)が一番の勝ち組としたら、二番手はあんがい、あなたの欲しい商品はこれですよー、と教えてあげられる側なのではと。
  
そう、でそうなった時に、アフィなら割と特殊な技術を持たない人とかでも、参加しやすい。
111なら…DLsiteの情報を得て、上手く加工し(紐付け)て、アフィをやる。
欲しいもの、本当にニッチなものが見つかるようにしてやる。
 
今は大体、新着のランキングからとか、あるいはタグで探して売上順から、拙いレコメンド機能から…だったりすると思うけど、元来、人は誰にでも通用するネタより、自分用に作られたニッチネタの方が鋭く、面白いと感じる。
そう読み取る事が出来て、これは面白いなと。
 
なんでも本によれば、今は曲線だが絞り込みや検索がしっかりといけば、本来ロングテールの形は、まっすぐ右肩下がりになる直線だという。
つまり曲線と右下に向う直線の幅の差、これが眠っている可能性である。
これが良い発見でした。
 
2つ目の良い発見は、同人作品を作る側として。
『FREE』で金銭だけに依らず自由に動ける気持ちを取り戻したけど、『ロングテール』でニッチで居られる恩恵を取り戻した、という感じです。(2つとも同じ作者)
 
ニッチで居られるのはネット販売の特権なのだから、もうどんどんニッチでもいい。
しないなら、ニッチに特化していけばいい。
以前なら仮に同人誌でニッチを出したとしても、売れなかった分は持ち出し、赤字だった。
だがDL販売なら損することは、もう無い。
損が無いならやろうかなって人もまた出て来て、そしてテール(尾)は更に伸びていく…
 んでニッチでも良い、と自分を認めてから、今度は消費者として買う作品も催眠モノや壁尻とかを探り初めて、性癖をあーだこーだと探ること自体、それ自体でワクワクしたりする。
そして製作にもその効果が表れたりして。
 
…まぁロングテールみたいな理屈の下地が無くても、始めからニッチで自由に居られる人は居られちゃうのだが、まぁ弱い人間はついブレる。
こういう下地があると、救われた気持ちになるね。
 
 
続きは次回の記事で。(http://d.hatena.ne.jp/gamecome/20110920)